SaaSビジネスの成長戦略2:戦略的なアップセルの提案

Written by:

SaaSビジネスの10の重要な成長戦略に関する詳細解説シリーズの第2弾です。ダウンロードはこちらから。

Paul Farris氏は、Marketing Metrics:The Definitive Guide to Measuring Marketing Performanceで、次のように述べています。「新規の見込み客に販売する可能性は5~20%だが、既存の顧客に販売する可能性は60~70%である」

そのため、急速な成長を遂げているクラウド企業が、既存の顧客からの収益を増加させていることは、驚くべきことではありません。

このことは、最近のPacific Crestによる2016年SaaSベンチマーク調査でも示されています。この調査によれば、アップセルで1ドルの収益を上げるためのCAC(顧客獲得コスト)は、新規顧客を獲得するコストのわずか24%に過ぎません。

同調査は、中央値の回答者が、アップセルから新たなACVの15%を獲得できることも示しています。収益が増加するにつれ、より大規模な企業は、アップセルからさらに多くの割合のACVを得ることで、CACと成長効率を概ね維持していることは明らかです。

アップセルとクロスセルの違い

では、クラウドビジネスにとって、アップセルとはどのようなものでしょうか。
(クロスセルではありません。クロスセルについては別個の成長戦略として取り上げます)

クロスセルは、既存の顧客に追加製品を販売するための戦略ですが、アップセルは、より機能が豊富(かつ高額)な上位の製品エディションを既存の顧客に販売するための戦略です。

アップセルは、収益の増加だけでなく、顧客の維持と定着のためにも不可欠です。顧客が製品やサービスから得られる価値が高くなるほど、満足度も向上するためです。

当然ながら、アップセルの機会を特定し、戦略的なアップセルパスを構築するためには、顧客を理解し、使用法について詳細な洞察を得ることが必要となります。

Dropbox - B2C: 消費量による成長モデル

ほとんどのクラウド企業はさまざまなアップセルパスを実際に提供していますが、すべてのクラウド企業が利用者をパスの上流にうまく押し上げているわけではありません。この対策こそがアップセル戦略です。

Dropboxは、アップセルへのスマートなアプローチにより、収益と顧客を見事に増加させているクラウド企業の良い例です。

まずはB2C側でのDropboxのアップセルパスについて簡単に確認しましょう。

Dropboxはフリーミアムモデルを利用して、個人ユーザー向けに2GBのクラウドベースのディスク領域を使用できる基本プランを提供しています。ディスク領域が足りなくなったら(写真やメディアをバックアップし始めるとすぐに足りなくなります)、プロフェッショナルプランにアップグレードできます。Dropboxにアップグレードを勧めるメッセージが表示され、ユーザーはアプリ内から直接アップグレードを実行できます。

This is a smart tipping point.

Dropboxは、ユーザーがディスク領域の上限を超えて支払うことをいとわないように、この上限を戦略的に設定しました。つまり、顧客を惹きつけるには2GBで十分であり、一旦惹きつけられれば、プロフェッショナルプランにアップグレードしてくれることを理解しています。

消費量による成長モデルを実行に移すと、このようになります。Dropboxの個人ユーザーは追加機能を必要としないかもしれません。それでも時間が経てば、元々の能力(すなわちデイスク領域)がもっと必要になる時期がきます。

ディスク領域の増加に加えて、プロフェッショナルプランでは他の機能も提供されます。しかし、追加のディスク領域こそ、Dropboxの「成長過程」とよく調和する付加価値であることは明らかです。この成長過程で、顧客はまずシンプルなプランから始めて、時間が経ってから複雑(かつ高額)なオファリングへと有機的に成長します。

Dropbox B2B: Capability-Driven Growth

DropboxのB2B分野の詳細を見れば、Dropboxがアップセルパスの設計においても同等にスマートなアプローチをとっていることがわかります。

B2Bのオファリングでは、Dropboxは機能主導による成長モデルという異なる手段を採用しています。すなわち、Dropboxのビジネスプランでは、特にビジネスが成長し、ユーザー数が増加するのに伴い必要となる拡張型の機能一式を提供しています。

現在のクラウドストレージビジネスにはGoogle、Amazon、Apple、Microsoftといったプレイヤーが揃っていることから、Dropboxは消費量による成長モデル(つまり、ディスク容量と価格)では競争に勝てません。これらの大企業は常に、より多くのディスク領域をより低価格で提供できることを目指しています。

そのため、ビジネスプランへのアップセルを導けるかどうかは、その元々の機能性と追加機能次第となります。具体的には、チームとの共有とコラボレーションの機能、およびセキュリティ向上のための機能です。

アップセルへのパスを加速させる

こういった理由で、Dropboxでは、アップセルパスを進むユーザーに対して次のようなメッセージを表示して、Dropboxへの関わりを深め、他の人を招待するように働き掛けています。

ユーザーがDropboxを多く使用するほど、ディスク領域が足りなくなるのが早まります。また、既存ユーザーが新規ユーザーを招待するたびに、利用者の輪が大きくなり、Dropbox Businessへのアップグレードの可能性が高くなります。ユーザー数を増やす必要がある場合、Businessプランへのアップグレードを勧めるメッセージが表示されるようになっています。

当然ながら、このような働き掛けがうまくいくかは追跡次第です。Dropboxは、Dropbox Businessへのアップグレードの有力候補となる企業を発見するために、共通の企業名が入ったメールアドレスの追跡、および使用状況の追跡ができる必要があります。

DropboxのエンタープライズプランであるDropbox Enterpriseは、Dropbox Businessと同じ基本機能に加えて、「高度なセキュリティとコントロール、強化された顧客サポート、カスタマイズ」を提供することで、さらに大規模な組織のニーズに対応しています。Businessプランと同じく、Enterpriseへのアップセルを促すためにDropboxが採用している手段は機能主導による成長モデルです。

Dropboxのアクティブユーザーのうち、有料サービスの購買客の割合はわずかですが、2016年6月に、DropboxのCEOであるDrew Houston氏は、エンタープライズの顧客が約150,000社に上ることを明かしました。

さらに、2017年、IPOの可能性についてのうわさが渦巻く中で、DropboxはBusinessソリューションの後押しを継続しており、(個人ユーザー数よりも)Dropboxの利用企業が200,000社あることを強調しています。

クラウドのディスク領域の競争は本格化しています。Dropboxは、100億ドルという現在の評価額を維持し、うわさされているIPOに備えるためには、オファリングを革新し続け、消費と機能を重視した手段を用いることで、ユーザーを上流に押し上げる必要があります。

アップセルによる成長戦略

Dropboxの戦略の要点は、消費量による成長モデルと機能主導による成長モデルの両方を活用していること、および顧客を洞察することで中、長期的なアップセルパスを設計していることです。

将来的なアップセルの成長を損なう顧客獲得の優先順位を間違えてはいけません。長期的な成長と維持を見据えて、(販売とマーケティング・インセンティブの調整を含む)戦略的なアップセル・パスを設計する必要があります。

両方ではなく1つの戦略だけに注力している企業はよく見受けられますが、これは事実上、得られるはずの収益を棚上げしていることになります。2つの戦略によるアプローチでアップセルパスを設計することで、採用率の向上、顧客にとっての価値の向上、および企業にとっての収益の増加を実現できます。

Key Takeaways

成功するためのアップセル戦略を作成・実行するためには以下の要件が必要です。

  • データに基づきパッケージ化を行い、アップセル戦略の重要な転換点をデザインする
  • 機能による成長モデル、消費量による成長モデル、またはその両方のアップセル戦略をデザインする
  • 潜在的なアップセルに注力するために、必要な顧客情報を利用して販売部門を強化する

Learn from your peers. Network your heart out.

Join a Subscribed event near you.

View Events